かないみき 2003.04
「少年と粘土 -愛と憎しみ」


それはうちこわされ、覆い込まれる。
くり返される破壊と愛撫。
それは巨大な粘土の塊。赤いライトに照らされた巨人の心臓。

札幌の遅い春の夜、まだ冷たい風に運ばれて、薄暗いプラハに人が集まりはじめる。
そこは椎名勇仁のスペースだ。オブジェが点在し、パフォーマンスも予告されている。
なかでも目を引くのが大きな山のような粘土の塊。くりかえし視線でなぞっていると、
ヒトの心臓のかたちが浮かび上がってくる。いくつものライトが巨大な心臓を
照らし出し、いやがうえにも予感が高まる。
突然、会場のざわめきが途切れ、緊張が走る。それは、はじまりの合図だ。

太田ひろの打ち出す、けたたましい叫びにも似た音とリズムに寄生された椎名の身体
が動き出す。裸足の彼の身体は、操られるかのように波打つ。
取り憑かれた二本の腕は、刃物が列ぶケースへと伸び、一本の出刃包丁を取り出す。
そして即座にその巨大な心臓をひとつき。
椎名の背中には、鍵盤ハーモニカが固定され、身体を抑圧する太いテープが巻き付く。
彼の口元へと管はつながれ、会場に不協和音が響きわたる。太田の手許からわき
あがる音と椎名の奇異な音は反発することで引き合うかのように、おどろおどろしい
空間をつくりだす。
椎名が巨大な粘土の塊に足をかけた。身体の内なる心臓によじのぼる身体!そしても
がきながら破壊をはじめる。刃物や斧を手に、ずばずばに。痛々しい傷口に赤ワイン
が注がれる。そしてまた、彼はそこへ近づき攻撃する。ほじくり返された巨大な心臓
にできた大きなくぼみを液体で満たし、椎名はうつぶせとなり、顔をうずめた。必死
にそこへ入り込もうと手足を動かし、悶え、苦しむ。どうにもならないまでに粘土を
愛してしまった男の悲劇か。愛憎相半ばするステージは、太田の激しい音と共に続い
てゆく。再び斧がふられる。
暗闇に射し込む光線は、椎名をどこか別の世界へといざなうかのようだ。湯気立つ彼が、
窓ガラスに映し出され、わたしは彼の二重の存在に気づかされる。自分の目の前で
生々しいパフォーマンスを続ける彼が、一枚のスクリーンに映ることにより、
その情景は、さながら幻想のように浮かび上がり、わたしの足をすくませた。
巨大な粘土の心臓の上から降りてきた椎名は、袋から怪しげな草を取りだし、いくつ
かに分けてお灸のようにそれらを点々と据えた。太田の音は終わる。静寂の中、椎名
は飛び散った粘土の残骸を回収し、ひとつに積み上げる。

「終わり」あどけない笑顔で彼がつぶやいた。
それはまるで、大きなコップに並々とつがれた牛乳を、一気に飲み干した子供のよう
な満足げな表情だった。

かないみき
アートライター

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